オフィスのアクセスポイント設置場所はどう決める? つながらない場所をなくす配置設計の基本
- wTokyoWireless
- 7月2日
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「会議室に入るとWi-Fiが途切れる」「特定の席だけビデオ会議が固まる」——オフィスWi-Fiの不調の多くは、機器の故障ではなくアクセスポイント(AP)の配置設計に原因があります。本記事では、中小企業のIT担当者の方に向けて、デッドスポット(つながらない場所)をなくすAP配置設計の基本を、周波数帯ごとの特性から会議室・高密度エリアの対策まで実務目線で解説します。
1. 配置設計の2つの考え方:カバレッジとキャパシティ
AP配置には2つの目的があります。
カバレッジ設計(面のカバー):オフィス全域で「つながる」状態をつくる設計です。目標値として、Ciscoはビデオ会議や音声通話を想定した環境で RSSI(受信信号強度)-67dBm以上、SNR(信号対雑音比)25dB以上 を推奨しています(※1)。データ通信中心のネットワークならSNR 20dB以上が一般的な目安です(※2)。
キャパシティ設計(収容能力):電波が届いていても、AP 1台に端末が集中すれば速度は出ません。1人がPC・スマホ・タブレットを持ち込む現代のオフィスでは、カバレッジだけの設計はほぼ確実に容量不足になります。AP 1台あたりの同時接続端末数は、一般的なオフィス利用で30〜40台以内、ビデオ会議常用なら20〜25台以内に抑えるのが実務上の目安です。
2. 周波数帯ごとの特性と設計ポイント
2.4GHz帯:遠くまで届くが「混雑した3車線道路」
日本では1〜13chが使えますが、互いに重ならないチャネルは実質 1・6・11chの3つだけです(※3)。到達距離は3帯域中もっとも長い一方、電子レンジ・Bluetooth・コードレス電話などWi-Fi以外の干渉源が最も多い帯域でもあります。
メイン帯域として設計せず、IoT機器や古い端末の救済用と割り切る
全APで2.4GHzを有効にすると干渉だらけになるため、一部APでは2.4GHz無線をオフにする
チャネルは1・6・11の3チャネル運用、チャネル幅は20MHz固定
Ciscoは2.4GHzの混雑対策として低速データレート(1〜11Mbpsなど)の無効化を推奨しています。低速レートは遠くまで復調できるぶんセルが不必要に広がり、チャネル利用率を悪化させるためです(※1)
5GHz帯:オフィスWi-Fiの主力。ただしDFSに注意
W52(36〜48ch)・W53(52〜64ch)・W56(100〜144ch)の合計19チャネル(20MHz幅時)が使えます(※3)。設計の主軸はこの帯域に置くのが基本です。
注意点は**DFS(動的周波数選択)**です。W53・W56は気象レーダー等と周波数を共用しており、屋内・屋外を問わずDFS機能の具備が必須とされています(※4)。APがレーダー波を検出するとチャネルを強制変更し、その間通信が中断します。ビデオ会議が業務の中心なら、自社環境でのDFSイベント発生頻度をAPのログで確認したうえでチャネルプランを決めましょう。
チャネル幅は一般オフィスで40MHz、高密度エリアは20MHzが基本。80MHz幅は干渉しないチャネル数が激減するため、AP台数の多いオフィスでは非推奨
隣接するAP同士には必ず異なるチャネルを割り当てる(チャネル再利用計画)
6GHz帯(Wi-Fi 6E/7):干渉のない新天地。ただし届きにくい
日本では2022年9月の制度改正で5925〜6425MHzの500MHz幅が開放されました(※5)。ガードバンドを除く実質480MHz幅で、20MHz幅なら24チャネル、80MHz幅で6チャネル、160MHz幅でも3チャネルを確保できます(※6)。屋内利用はLPI(Low Power Indoor)モードでEIRP最大200mW、屋外はVLP(25mW)に限定されます(※5、※6)。
最大の利点は、レガシー端末が存在せずDFSも不要なこと。80MHz幅を干渉なく複数並べられる唯一の帯域です。一方、周波数が高いぶん壁・床での減衰は5GHzよりさらに大きく、同じAP位置でもカバー範囲は一回り狭くなります。
6GHzを本格活用するなら、6GHzのカバレッジを基準にAP密度を決める(結果的に5GHz/2.4GHzは十分カバーされる)
制度面では、2026年4月に総務省の審議会が屋外・高出力のSPモード導入と6GHz高域帯(6570〜6870MHz)への拡張を盛り込んだ報告書案を大筋了承しており(※7)、今後さらに使いやすくなる見込みです。中期の設備更新ではWi-Fi 6E/7対応APを前提に検討する価値があります
3. 通常利用とヘビー利用で設計はどう変わるか
通常利用(メール・Web・クラウドアプリ中心)では、カバレッジ設計(-67dBm確保)を満たせば、一般的な事務所レイアウトでAP間隔は15〜20m程度に収まることが多いでしょう。
ヘビー利用(ビデオ会議常用・大容量ファイル転送)では基準を引き上げます。ビデオ会議はHD品質で1端末あたり数Mbpsを常時消費し、遅延・ジッタにも敏感です。「フロアの何割が同時にビデオ会議をするか」を想定し、その帯域合計をAPの実効スループット(規格値ではなく実測ベース)で割って必要台数を逆算します。このとき、広いチャネル幅×少ないAPよりも、20/40MHz幅×多めのAPのほうがチャネル再利用が綺麗になり、実効容量は上がります。
4. 会議室・役員室など「個室」への設置
個室のトラブル主因は壁による減衰です。ただし減衰量は材質・厚み・工法で大きく変わります。実測例として、日経NETWORKがオフィスで行った実験では、ガラスの壁1枚では約1dBの減衰にとどまった一方、扉付き金属パーティションでは2.4GHz・5GHzとも約14dB減衰しました(無遮蔽時-45/-48dBm→パーティション越し-59/-62dBm)(※8)。金属・コンクリート・断熱材入りの壁は電波を大きく減衰または遮断し、金属ワイヤ入りガラスも要注意です(※8、※9)。
実務の進め方は次の通りです。
まず既存APからの電波強度を室内で実測する(軽量間仕切り程度なら廊下側APでカバーできることも多い)
コンクリート壁・防音壁の会議室や、6GHz帯を使いたい会議室は室内専用APを検討
会議室は「人数×端末数」が瞬間的に跳ね上がる場所。8人会議室でもPC+スマホで16端末+画面共有のトラフィックが走るため、中〜大会議室は原則専用APを推奨
個室が並ぶエリアでは、隣室のAPが「見えすぎる」と干渉源になるため、チャネル割当と送信出力の調整をセットで行う
5. 大会議室・セミナールームなど高密度エリアの設計
数十人が一室に集まる環境は、通常のオフィス設計とは別のアプローチが必要です。Ciscoの高密度設計ガイドでは、満員の会議室では人体による電波吸収で信号が約5dB低下し、さらにノイズフロアが約5dB上昇する(合計でSNRが約10dB悪化する)と指摘されています(※10)。空室時の測定だけで判断すると、本番で一斉につながらなくなるのはこのためです。
基本方針は「セルを小さく、たくさん作る」です。
送信出力を調整してセルを分割:出力最大のAP 1台より、出力を絞ったAP複数台で空間を分担するほうが総収容力は上がります。ただし出力を下げても端末側の送信範囲は変わらないため、下げすぎは禁物です(※10)
チャネル幅は20MHz(5GHzで20〜40MHz):狭い幅でチャネル数を稼ぎ、AP間干渉を防ぐ
最低接続レートの引き上げ:低速レートを無効化して12〜24Mbps以上を必須レートに設定すると、セルサイズが実質的に絞られ、低速端末によるエアタイム浪費と遠距離での「しがみつき」を防げます(※1、※10)
5GHz・6GHzへの誘導:バンドステアリングで対応端末を上位帯域へ寄せ、2.4GHzの負荷を最小化
アンテナ選定:天井が高いホールでは、無指向性アンテナより指向性アンテナで座席エリアを狙う設計が有効です
6. 見落としがちな設置のポイント
設置場所・高さ・向き:基本は天井設置です。机上や棚の中、金属ラックの奥への設置は遮蔽・反射で性能が大きく落ちます(※9)。内蔵アンテナには指向性があるため、天井取付用APを壁に付けると電波が床や天井に向いてしまうことがあります。メーカー指定の取付方向を守りましょう。また金属製の梁・ダクトの直近や天井裏への「隠し設置」は、減衰に加えて熱の問題も起こしやすいため避けます。
干渉源との距離:給湯室の電子レンジ、コードレス電話、Bluetooth機器の密集地帯からは距離を取ります。ビル内では隣接テナント・上下階のWi-Fiという「自社で制御できない電波」も飛んでいる前提で、チャネルを決める必要があります。
ローミング設計:移動しながらのビデオ会議が当たり前になった今、隣接APのセルは適度に(一般に15〜20%程度が目安)重複させ、端末が弱い電波に落ち込む前に次のAPへ乗り移れるようにします。重複が大きすぎれば干渉、小さすぎれば切断——この加減こそ実測で詰めるポイントです。
インフラ面:APごとに有線LAN(Cat6A推奨)とPoE給電が必要です。Wi-Fi 6E/7対応APはPoE+(802.3at)以上を要求する機種が多いため、既存スイッチの給電能力とアップリンク帯域(1Gで足りるか、2.5G/10Gが要るか)を事前に確認しましょう。
7. 設計は「予測→実測→検証」の3ステップで
図面上の机上設計だけで配置を確定するのは危険です。壁の中の金属下地、隣接テナントの電波、電子レンジの干渉——図面には現れない要因が、実際のデッドスポットを生みます。
予測(設計):フロア図面と壁材質からAPの台数・位置・チャネルプランの初期案を作る
実測(仮設置サーベイ):候補位置にAPを仮設置し、電波の飛び方と干渉を実測する。このとき、Wi-Fiの電波強度だけでなくスペクトラムアナライザーでWi-Fi以外の干渉源(電子レンジ、Bluetooth等)まで可視化しておくと、原因不明のトラブルを未然に防げます
検証(設置後サーベイ):本設置後に全エリアを歩いて測定し、RSSI・SNR・ローミング挙動が設計基準を満たすか確認する。レイアウト変更や人員増のたびに再測定するのが理想です
当店(wi-t.com)では、こうした電波の可視化に使えるスペクトラムアナライザー「Wi-Spy」やサイトサーベイ用の解析ツールを取り扱っています。「まず自社オフィスの電波状況を見てみたい」という段階のご相談もお受けしていますので、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
設計基準は「カバレッジ(-67dBm/SNR 25dB)」と「キャパシティ(AP 1台あたりの端末数)」の両輪で
2.4GHzは補助帯域と割り切り、5GHzを主軸に。これからの設計は6GHzのカバレッジ基準でAP密度を決める
個室は壁材質の減衰を実測で確認。中〜大会議室には専用APを
高密度エリアは「小セル×多数AP×狭チャネル幅×最低レート引き上げ」が鉄則。満員時はSNRが約10dB悪化する前提で設計する
最後は必ず「予測→実測→検証」のサイトサーベイで裏付けを取る
出典一覧
※1 Cisco「Understand Site Survey Guidelines for WLAN Deployment」(音声用途の推奨最低値 RSSI -67dBm/SNR 25dB、低速レート無効化の推奨) https://www.cisco.com/c/en/us/support/docs/wireless/5500-series-wireless-controllers/116057-site-survey-guidelines-wlan-00.html
※2 Cisco Meraki「Signal-to-Noise Ratio (SNR) and Wireless Signal Strength」(データ用途 SNR 20dB以上/音声用途 25dB以上) https://documentation.meraki.com/Wireless/Design_and_Configure/Architecture_and_Best_Practices/Signal-to-Noise_Ratio_(SNR)_and_Wireless_Signal_Strength
※3 総務省 電波利用ポータル「小電力データ通信システム(無線LAN等)」(各帯域のチャネル構成・技術基準) https://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/system/ml/wlan/index.htm
※4 総務省 電波利用ポータル「無線LANの屋外利用/上空利用について」(W53・W56のDFS必須要件、6GHz帯VLPの屋外利用) https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/others/wlan_outdoor/index.htm
※5 ケータイ Watch「総務省が『6GHz帯無線LAN』関連の制度を改正、『Wi-Fi 6E』が利用可能に」(2022年9月制度改正、LPI=EIRP最大200mW・屋内限定、屋内外利用は25mW) https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/news/1437349.html
※6 INTERNET Watch「Wi-Fi 6E国内利用に向け1歩、総務省が導入に向けた技術的条件の審議結果を公表」(実質480MHz幅、20MHz幅24ch/80MHz幅6ch/160MHz幅3ch) https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/1404289.html
※7 BUSINESS NETWORK「6GHz帯Wi-Fi、『屋外高出力』SPモードが解禁へ」(2026年4月17日、SPモード導入と6570〜6870MHz拡張を盛り込んだ報告書案を大筋了承) https://businessnetwork.jp/article/34055/
※8 日経クロステック(日経NETWORK)「障害物で電波はどれだけ減衰するのか?」(ガラス壁:約1dB減衰、扉付き金属パーティション:約14dB減衰の実測例) https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/nnw/18/092800035/121900004/
※9 バッファロー サポートFAQ「壁越しに無線通信することはできますか」(金属・コンクリート・断熱材・金属入りガラス等による減衰・遮断) https://www.buffalo.jp/support/faq/detail/961.html
※10 Cisco「Wireless High Client Density Design Guide」(満員時の人体吸収による約5dBの信号低下とノイズフロア約5dB上昇、送信出力調整の限界、最低レート引き上げの効果) https://www.cisco.com/c/en/us/td/docs/wireless/controller/technotes/8-7/b_wireless_high_client_density_design_guide.html
※本文中のAP1台あたりの推奨端末数、AP間隔、セル重複率は、特定の規格値ではなく業界で広く用いられる設計目安です。実際の値は端末構成・アプリケーション・建物構造により変わるため、サイトサーベイでの実測にもとづいて調整してください。



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